ドリトル先生旅行



 御忍び連発四連荘(よんれんちゃん)
 授業も課題も放り出し、サボりまくって怒られた。
 あたしじゃないよ。勿論ディアーナ。
 流石の殿下も、堪忍袋の尾が切れて、外出禁止2週間。
 あーらら…
 面会謝絶なんて、病人じゃないのにねぇ…
 ま、一緒になって街を歩いていたあたしじゃ、警戒されるのもしょうがないか。
 あたしは保護者の何時ものお小言(カミナリっていう言い方もあるけど気にしない)ですんだけど、ディアーナ可哀想だなぁ…
 ここはそれ、このメイ様が一肌脱ぐといたしましょう。
 
 どうにか殿下に頼み込み、ディアーナの部屋に辿りつく。
 ノックして、中に入った途端、ピンクの塊が飛んできた。

「メイ、メイ。会いたかったですわ。寂しかったですわ」

 ピンクの髪の王女様。
 紫の目に涙をいっぱい溜めて飛びついてくる。
 はいはい、あたしか来たんだからもう泣かないの。
 二人ではじめる久々のお茶会。
 
 街の様子は変わんないな〜。
そうそう、この間の迷子にまた会ったよ、憎ったらしい事言ってた。
「良かったですわ、もう迷子にはなってませんのね。そういえば、公園にいる野良猫の親子はどうしてますかしら…」
 野良猫の親子?あれ飼主居たんだよ。公園の近所のおばあちゃん。
「まあ、そうですの?」
 うん、すごく可愛がってるよ、安心した?
「はい」
 
 取り留めのない世間話。
 こういうのって楽しいんだよね。
 ディアーナは、お話するのも聞くのも大好き、勿論それはあたしもおんなじだけどさ、でも何と無く、わくわく街の様子を聞いているディアーナが、可哀想になってきた。
 ディアーナは王女様。
 御忍び大好きだけど、本当は、王宮から一歩も出れないはずの女の子。
 街に出れても、街の外、国の外なんかには出れやしない。
 旅行なんて夢のまた夢だって、前に言ってたっけ…
 あ、そうだ、こういう時は、「あれ」だよね。

 ねえディアーナ、旅行に行かない?
「え?」
 世界旅行。行く先不明。楽しいよ。
「メイ…わたくし、王宮から出られませんのよ…」
 判ってますって。
「なら…」
 大丈夫。すぐ側だから。
「判りませんわ〜?」

 きょとんとしたままのディアーナを連れて、あたしは書庫にやってきた。

「メイ…ここは書庫ですわ」
 そうだよ。
「旅行に行くんですわよね…?」
 うん、ドリトル先生旅行だよ。
「はあ?」

 首を傾げるディアーナにウインク一つ。

 細工は流々、仕上げを請う御覧(ごろう)じろってね♪
 まずは地図が要るんだよ。
「行く先をきめるんですの?」
 みてなさいって、何処だったかな〜世界地図帳があったよね、でかくて重い本…と、あったあった。
 ほんとに重いなー。ディアーナ、手伝って、一人じゃ運ぶのしんどいや。
「はい、ですわ。…こんな本、アイシュが整理できるんですの?」
 したんじゃない?結構力持ちかもねー。
「むう…(あなど)れませんわね」
 アイシュの意外な秘密ってか?今度聞いてみよ〜。
 さ、これをそこのテーブルに置いて、次は…
「何か要りますの?」
 うん、鉛筆。まあ、羽ペンでもいいか、インクつけなきゃ良いんだもんね。
「メモしますの?」
 良いから良いから、このペン持って。
「持ちましたわ」
 じゃあ、目を瞑って。
「……はい?」
 目隠しがあるほうが良いかな?でもここにはないもんね。
「ちょっとメイ、地図帳に、ペンに、目隠しって、何ですの?」
 まだ判んない?
 まあ良いや、とにかく目を瞑ろうよ。あたしもおんなじにするからさ。
「…わかりましたわ…」
 …ディアーナ。薄め開けちゃ駄目だよ。よーしこうしちゃえ。
「きゃっ、メイ。両手で目隠しされたら、何にも見えませんわ〜」
 だから目隠しなんじゃない。良いから、このまま地図帳開いて。
「見えませんのよ。どのページかわかりませんわ」
 てきとーで良いのよ、てきとーで。
「むう〜。何が何だかわかりませんけど…よいショ…開きましたわ」
 OKOK。じゃあ、ペンを持った手を、地図帳の上で大きく三回丸書いて。
「いち…にぃ…さん…」
 そのまま下に下ろす。
「えい」
 手を動かさないでね。さあ、目を開けるよ。
「はぁ〜。なんなんですの?」
 ねね、ディアーナ。ペンが差している場所を見てよ。
「?知らない国ですわ…ここに行くんですの?」
 もう来たよ。
「え?」
 丁度町の上なんだ、ラッキー。何て国の何て町かな?
 え〜と…
「大陸の町ですわね。アジリア国……?」
 ラジュムって町か…
 よーし、次は百科事典だ。
「今度は百科事典ですの?」
 そう、この町を調べるんだよ。どんな町なのかなー?
 さ、百科事典持ってこようよ。
「判りましたわ…」
 ら…ら…っと。あったあった。
 か〜っやっぱこれも重いね〜。ま、旅行の荷物と思えば苦じゃないや。
 ラジュム…南の国だね〜。暑い場所にある町だよ。
「そうなんですの。どんなところですかしら…」
 お花の名前がある…へー、ラフレシアがあるってことは、熱帯雨林だ。
「熱帯雨林?」
 ジャングルがあるんだよ。どんな花か見たいよね。今度は熱帯植物図鑑を出そう。
「まだ本を出すんですの?」
 これからが本番だよ。
「う〜なんだか判りませんけど…面白そうですわね」

 
 百科事典で町を調べて、植物図鑑でジャングルを調べて、動物図鑑でどんな生き物が居るのか見る。
 町の名産だって忘れちゃいけない。
 あ、この町はアクセサリーを作ってる。宝石屋さんも多いよ。綺麗なネックレスだね〜♪
 このピアスはディアーナに似合うよ。うん、絶対。保証するって。
 市場に行こうよ、何を売ってるんだろう?美味しい食べ物あるかな?
 観光名所を調べてみようよ。どんな人が住んでるんだろう?
 町並みはどんななの?真っ白い角砂糖みたいな家が並んでるね。
 ここ猫が多いんだ、まるで猫の町みたい。
 市場のおばさんが、猫に店番頼んでる。魚屋さんなのに、猫が店番?
 すっご〜い、おっかし〜♪
 ねえねえ、判ったでしょう?
 ほら、もうこの町の中に、あたし達居るよ…


「面白いですわ。これならすぐに世界旅行が出来ますわ」
 でしょう?よく友達と図書館で遊んだんだ。
 ドリトル先生の真似してさ。楽しいでしょう?
「ドリトル先生って方に教えていただいたんですの?」
 え?違うよ、ドリトル先生っていうのは、あたしの世界にある、お話の主人公なのよ。
「そうなんですの」
 うん、動物の言葉の判る人で、その人が旅行する時や暇つぶしにする遊び方なんだ。
「面白いお話なんでしょうね…」
 あたし大好きだったよ。
「今度教えてくださいな」
 今度でいいの?
「ええ、だって、今日は旅行で忙しいんですもの」
 あははは、そっか〜。
 じゃあ、次の町に行こうか?
「はい、ですわ。準備は宜しくてよ」
 じゃ、しゅっぱーつ。



 地図を開いて、本を積み上げ、空想の旅行に行く少女達。
 通りかかった皇太子と筆頭魔導士は、書庫を覗いて小さく笑った。

 何時もの会話
 何時ものやり取り
 かくして日々は過ぎていく。

END

言い訳
連作シリーズ「かくして日々は過ぎていく」第三弾
別名「まかせてチントンシャン」
ええ、好きなんです、少年アシベ……